36階から見える自由の女神
私が所属する部署は、ワールドファイナンシャルセンターの36階にあった。今はもう存在しない、あのワールドトレードセンターの隣に建つビルだ。窓の外に目をやると、間近に自由の女神が見える。ああ、私は今ニューヨークにいるのだと、その瞬間に初めて実感した。
勤務初日の緊張
緊張で胃が締め付けられるような朝だった。日系大手銀行のマンハッタン支店。ドアを開けた瞬間、日本語と英語が入り混じった独特の空気が漂っていた。
見えない序列
職場の構造は、入社初日にして一目瞭然だった。管理職はほぼ全員が日本人。事務系のスタッフは白人のアメリカ人。そしてコーヒーの給仕や郵便物の配送を担うのは、黒人のアメリカ人だった。まるで見えない序列が、オフィスの空気に溶け込んでいるようだった。当時の私には、それを声に出して問う言葉も勇気もなかった。ただ、どこか胸の奥に引っかかるものを感じながら、自分の席についた。若い日本人女性である私は、この構造のどこに位置するのだろうと、ぼんやり考えた記憶がある。
今振り返れば、それは1980年代のアメリカの職場に根強く残っていた人種と階層の現実だった。差別と呼ぶには日常に溶け込みすぎていて、しかし平等と呼ぶには程遠い。複雑な気持ちは、言葉にならないまま胸の中に沈んでいった。
仕事の始まり
それでも仕事は始まった。私の職務は、外貨ディーラーと全米の顧客との間に立ち、為替取引を成立させることだった。緊張と戸惑いを抱えたまま、私のマンハッタンでの日々が動き出した。
※その後の業務については第14章:外貨ディーラーのアシスタントに続きます。


コメント